マイコプラズマにご用心~これから妊娠をお考えの方に

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正月明けの3連休も今日で最後。皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、今日は特にこれから妊娠をお考えの方に重要なお話です。

皆様はマイコプラズマという病気をご存じでしょうか。

咳がすごく出るやつでしょ?と思われた方。
それも正解です。マイコプラズマ・ニューモニエという細菌によって引き起こされるマイコプラズマ肺炎は乾いた咳が特徴で、かつては4年周期、しかも夏季オリンピックの開催年に一致して流行していたため、「オリンピック肺炎」などとも呼ばれていました。
しかし、今回のマイコプラズマはそれとは実は別のお話です。
「性感染症(性病)」のマイコプラズマ感染症、「マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症」です。
マイコプラズマ・ジェニタリウムは同じ「マイコプラズマ属」の細菌なのですが、その実態は全くの別物。こちらは肺炎の原因にはならず、飛沫感染ではなく、性交渉によって感染します。

性感染症(性病)と言えば梅毒、淋菌、クラミジアなどが有名ですね。しかし、「性病のマイコプラズマ」はあまり聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、この感染症、感染頻度で言えばクラミジア・淋菌に次いで第3位、海外の研究では10代女性で最も多いという結果が出たこともあるほど実はありふれた感染症なのです。
では、なぜあまり有名になってこなかったのでしょうか。
それは、「一般診療に適した診断方法がなかった」からです。
特殊な方法を使えば以前から診断すること自体は実は可能でした。しかし、「非淋菌性尿道炎」などの名前で、その他大勢の性感染症とひとくくりにされ、長い間、特定することなく治療されてきた感染症だったのです。
ちなみに、症状は男性で強く、尿道炎を引き起こして排尿時の痛みや不快感、尿道分泌物の増加を認めます。一方、女性では尿道炎よりも「子宮頸管炎」が多く、自覚症状としてはほとんどありませんが、おりものの増加や不正出血、外陰部の不快感の原因となることはあります。どちらかと言えば男性の方で問題になる感染症だったとも言えます。
しかし、2022年6月1日からPCR検査による特定が保険適用でできるようになり、研究が進められた結果、今まではよくわかっていなかった実態が明らかになってきました。
それは、マイコプラズマ感染症が下腹部の強い腹痛や発熱を引き起こす「骨盤腹膜炎」や「不妊症」の原因となること、妊娠中の感染は「流産・早産リスクを上げる」ということです。これは日本人で最も多い性感染症であるクラミジアと同様です。
しかし、一点、マイコプラズマには非常にまずい点があります。
それは、「有効な抗菌薬(抗生剤、抗生物質)があまり存在しない」ということです。
病原菌に抗菌薬が効かなくなることを「耐性化」と言いますが、この中でも、マイコプラズマは「多剤耐性化」といって、多くの抗菌薬に耐性を持っているのです。
これは、もしかしたら「非淋菌性感染症」と大きなくくりで様々な抗菌薬を投与されてきた歴史や、「かぜを引いたから、とりあえず抗生物質を処方」というかつて日本であたりまえのように行われていた医療が影響しているかもしれません。同じマイコプラズマ・ジェニタリウムでも、アフリカでは耐性化は進んでいないという報告があります。
日本での耐性化はかなり深刻で、クラミジアの治療に使用される「アジスロマイシン」という抗菌薬はかつてはマイコプラズマ治療の第一選択薬でしたが、現在90%近い耐性化により、もはや無効とされています。そのため、現在最も用いられているのは「ドキシサイクリン」、次に「シタフロキサシン」、「モキシフロキサシン」です。難治例ではドキシサイクリンを1週間使用した後、シタフロキサシンやモキシフロキサシンを更に1週間使用するシークエンシャル法という治療法もあります。
ただし、困ったことに、これらの抗菌薬は、テトラサイクリン系、そしてニューキノロン系といって、妊娠中の使用が禁忌(使用禁止)とされている数少ない薬剤の中に入ってしまっているのです。
先日参加した日本性感染症学会では「妊婦のマイコプラズマには治療法がなくなってしまった」とまで言い切られていました。
ただし、アジスロマイシンは妊娠中でも使用可能で、実はマイコプラズマの検出とアジスロマイシン耐性を同時に確認する検査はありますので、それで「感受性」であればアジスロマイシンによる治療は可能です。それでも、耐性化が90%近くあること、特に都市部ではより進んでいるとされていることから、現実的には治療はなかなか難しいのが現実です。

この状況を鑑み、小池レディスクリニックでは「ブライダルチェック」の項目としてマイコプラズマ検査を導入することにしました。
もし感染している可能性があるのであれば、有効な抗菌薬が使用できる妊娠前に診断・治療し、安心して妊娠に臨んでいただきたいという思いからです。

投稿: 副院長