不妊症
晩婚化に伴い、不妊症に悩むカップルが急増しています。不妊症とは、健康なカップルが、避妊せずに普通の夫婦生活を営み、1年間妊娠しない場合をいいます。
おおむね、10組に1組が不妊症と言われていますので、それほど珍しいわけではありません。
原因としましては、原因は男性側、女性側あるいはその両方で、おおむね、男性側の原因が50%、女性側の原因が50%と言われています。ただし、全体の10〜25%程度が原因不明の不妊症と報告されています。
(参照: 小池浩司 執筆 不妊症の診断と治療 真興交易医書出版(東京)162-169. 1998)
不妊治療、最初の一歩は「一般不妊治療」から
「そろそろ子どもが欲しいけれど、なかなか思うように妊娠できない。こんな時、何から始めたらいいの?」
そんな場合は、まずは「不妊症外来」のある産婦人科に気軽にご相談ください。
「不妊治療」と聞くと、体外受精のような高度な医療を想像するかもしれませんが、実は多くの方が最初に行うのは自然に近い方法で妊娠をめざす一般不妊治療です。ちょっとしたボタンの掛け違えを直すだけでうまくいくことも、たくさんあります。
一般不妊治療とは?
一般不妊治療とは、「タイミング法」・「排卵誘発」・「人工授精(AIH)」など、身体への負担が比較的少ない不妊治療です。具体的には次のような内容です。
- タイミング法
- 基礎体温や超音波・ホルモン検査をもとに排卵日を予測し、妊娠しやすいタイミングを指導します。最も自然に近い方法です。
- 排卵誘発
- 排卵のタイミングが不規則な方や排卵がうまくいかない方に、内服薬や注射を使って排卵を促す方法です。
- 人工授精(AIH)
- ご主人の精子を洗浄・濃縮し、排卵に合わせて子宮内に注入する方法です。性交が難しい方や、精子の運動率がやや低い方などに行われます。子宮に入っていくところの「子宮頸管」が不妊の問題として疑われる場合にも有効です。
実際にはこれら3種類の方法を組み合わせて1回の治療効果が最大限になるように行われることが多いです。
いつ始めたらいいの?
1年以上妊娠の兆候がない場合、年齢によっては 半年以内でも相談が推奨 されます。
- 35歳未満の方:1年妊娠しなければ受診を
- 35歳以上の方:6か月妊娠しなければ相談を
また、生理不順・排卵の異常・子宮内膜症などの持病がある方は、早めの受診がおすすめです。
高度な治療が必要かどうかは、その後のステップ
同じ治療を数か月~半年行っても妊娠しない場合、そのままでは妊娠できる確率が極端に低くなってしまうため、治療法を段階的により高度なものにステップアップしていく必要があります。最終的に一般不妊治療では困難と判断された場合には体外受精などの生殖補助医療(ART)を検討することもあります。ただし、 すべての方がARTに進むわけではありません。
あなたに合った方法を、みつけていきましょう。
当院での不妊治療サポート
当院では、一般不妊治療が可能です。
「まず相談したい」方から本格的な治療を希望される方まで、患者さま一人ひとりに合わせたサポート を行っています。「そろそろ妊活を考えているのだけれど、ピルはいつからやめるのがよいの?」というようなところからでも結構です。妊娠していくための準備(プレコンセプションケア)についても情報を提供させていただきます。まずは気軽なご相談から始めてみませんか?
ご主人にもご協力をお願いします
妊娠は、 女性と男性、ふたりの体の状態がそろって初めて成立するもの です。
そのため、不妊の原因は「女性側だけ」ではなく、 およそ半数は男性側にも何らかの原因がある といわれています。また、大阪市には将来の妊娠のための夫婦の検査費用を1組5万円まで(夫婦2人の検査が必要、申請は1回限り)負担してくれる制度もあります。
当院では、 ご主人の検査(精液検査)も大切なステップ としておすすめしています。
精液検査とは?
精液検査では、以下の項目を確認します:
- 精子の数(精子濃度)
- 運動率(動いている精子の割合)
- 奇形率(正常な形の精子の割合)など
検査は 自宅や院内で採取した精液を提出するだけ で、痛みなどはありません。
ご主人の協力が大切な理由
- 原因を早期に把握し、遠回りを避けるため
- 男性因子が見つかった場合、治療方針が変わることがあるため
- ふたりで一緒に治療に向き合うことで、 気持ちの負担も分かち合える からです
ご主人が多忙で通院が難しい場合も、 精液提出のみで検査が可能 ですので、どうぞご相談ください。
保険適用について(2022年4月より適用範囲拡大)
不妊治療は 2022年4月から一部が健康保険の適用対象 となり、以前よりも経済的な負担が軽減されています。
対象となる主な内容は以下の通りです。
| ▶ 保険が適用される主な一般不妊治療 |
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|---|---|
| ▶ 人工授精を受ける際の保険適用の条件 |
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| ▶ 自費診療になるもの(例) |
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よくある質問
Q 不妊症の女性側の原因にはどのようなものがありますか?
A 女性の場合は排卵障害(多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症、早発閉経など)、卵管因子(卵管閉塞、癒着など)、子宮因子(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症、子宮奇形など)子宮頚管因子などがあります。
Q 不妊症の男性側の原因にはどのようなものがありますか?
A 精子の問題(精子の数が少なかったり、運動性が悪かったり、無精子症や精子の奇形率が高いなど)造精機能(停留精巣、精索静脈瘤、男性ホルモン異常)、勃起障害などがあります。
Q 不妊原因を調べる検査にはどのようなものがありますか?
A 女性の場合は、基礎体温表測定(排卵の有無)、超音波検査(卵胞の発育や子宮内膜の状態、子宮筋腫・卵巣嚢腫の有無)、採血によるホルモン検査(LH,FSH,E2プロゲステロン、プロラクチン、甲状腺ホルモン、AMHなど)、子宮卵管造影、性病検査(淋菌、クラミジア、マイコプラズマなど)があります。男性の場合は精液検査、ホルモン検査(テストステロン、LH、FSHなど)があります。
Q 不妊症の原因となる排卵障害にはどのような病気があるのでしょうか?
A 視床下部性の無月経、脳下垂体性無月経、子宮性無月経、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、高プロラクチン血症、早発閉経、極端な体重変化、ストレスなどがあります。そのほか、無排卵性月経や黄体機能不全などもあります。
(参照:小池浩司 執筆 新女性医学体系 第13巻排卵障害(編集武谷雄二)、排卵障害の分類と治療 中山書店 135-152 2000)
Q 排卵障害の治療にはどのような方法があるのでしょか?
A 排卵を調節している視床下部の部位に作用する内服薬(クロミフェエン、フェマーラ)や卵巣を刺激する注射剤(FSH製剤)があります。また卵胞が18mm以上に発育した場合、卵胞破裂を促す注射剤(hcg)も誘発剤として使われます。
Q 毎月、規則的に月経あれば排卵していると考えてもいいのでしょうか?
A 「規則的に月経がある」と言うだけ では、実際「排卵」しているかどうか分かりま せん。通常は排卵したら月経が来ますが、排卵 していなくても、月経が来ることがあるからで す(これを「無排卵性の月経」と呼びます)。
Q 排卵しているかどうか調べる方法はどのような方法でしょうか??
A まず基礎体温表が二相性を示しているかどうか、排卵前後で卵子を入れている袋(卵胞)が正常に発育したのち、消失したかどうか、排卵後に分泌される黄体ホルモンが正常に分泌されているかどうかなどを見て総合的に判断します。
Q 基礎体温表をつけながら自分で排卵日を推定することはできますでしょうか?
A 排卵日の直前つまり、「低温相 から高温相に移る」直前の、低温相では最も 低い温度になりますので、日頃の基礎体温を眺 めながら、この「低く落ち込んだ日」が排卵日の可能性高いと言えます。排卵日 の前には透明な、丁度「生卵の白み」のような、 おりものが増えてきますので、参考にして下さ い。また、排卵しますと、お腹の中に少量の出血が起こりますので、「腰の痛み」や排卵した 卵巣のあたりの「軽い腹痛」を感じることがあります。こうした排卵日付近のサインを見逃さず、注意深く観察し、総合的に排卵日を予測してください。
ブライダルチェック
ブライダルチェックとは?
結婚を控えた方や、これから妊娠を考えている方を対象に、将来の妊娠・出産やパートナーとの健康な生活に向けて、ご自身の体の状態を確認するための婦人科検診です。
自覚症状がなくても、性感染症や子宮の病気が見つかることもあり、早めのチェックが将来の安心につながります。
こんな方におすすめです
- 結婚や妊活を考えている方
- パートナーと将来の妊娠について話し合っている方
- 婦人科の検診をしばらく受けていない方
- 性感染症が気になる方
チェック内容(クリックで表示)
| 検査項目 | 内容・目的 |
|---|---|
| 問診・診察 | 月経周期・症状・既往歴などを確認します。 |
| 内診・経腟超音波 | 子宮や卵巣の状態(筋腫・内膜症・卵巣嚢腫など)を確認します。 |
| 子宮頸がん検診 | 細胞診により子宮頸がんや前がん病変を調べます。 |
| 乳がん検診(超音波検査) | 妊娠前に乳がんの有無を調べます。 |
| クラミジア検査 | 不妊の原因にもなる性感染症をチェックします。 |
| 淋菌・トリコモナスなど | その他の性感染症(希望に応じて)。 |
| 血液検査 | 貧血・ホルモン・風疹抗体・梅毒・B型C型肝炎・HIVなど。 |
よくあるご質問
Q いつ受けるのがよいですか?
A 生理中以外であればいつでも可能ですが、妊活を始める前や結婚前のタイミングが適しています。
Q パートナーと一緒に受けられますか?
A 当院では女性の検査が中心ですが、性感染症検査については男性でも尿検査で可能な場合もあります。詳しくはご相談ください。
Q 結果はいつわかりますか?
A 検査内容により異なりますが、多くは1週間ほどで結果が出ます。
費用について
基本的には保険適用外の自由診療となりますが、おりものの異常、月経異常、月経困難症で治療中などの場合は一部保険適用での検査も可能です。検査項目により費用が異なりますので、事前にご相談ください。
最後に
ブライダルチェックは、ただの「結婚前の儀式」ではなく、将来の妊娠やパートナーとの健康な生活に向けた大切なステップです。ぜひお気軽にご相談ください。