月経異常関連の疾患

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS:Polycystic Ovary Syndrome)

多嚢胞性卵巣症候群とは月経異常(排卵障害や月経不順)や男性化症状(多毛・ニキビなど)、肥満、不妊症を認める病気です。超音波検査にて卵巣に小さな嚢胞(卵を入れておく袋)がたくさん見られます。またホルモン検査では脳下垂体ホルモンの FSH(卵胞刺激ホルモン) が正常範囲にとどまり、 LH(黄体形成ホルモン) がやや上昇しています。

Q どのような場合に多嚢胞性卵巣症候群と診断されるのでしょうか?
A
  1. 採血で男性ホルモンの高値あるいはLHの高値を認める
  2. 月経異常(無月経、排卵障害や稀発月経)を認める
  3. 超音波検査で多嚢胞性卵巣を認める、あるいは採血でAMH高値

以上の3項目を認めれば多嚢胞性卵巣症候群と診断できます。

Q 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因はどのようなものがありますか?

A 原因としては中枢性(視床下部性)と末梢性(卵巣性)が考えられます。中枢性としては視床下部の排卵中枢の異常がもとでLHとFSHのバランスが乱れ、卵胞の発育が妨げられて生じます。また、卵巣からのアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰分泌により排卵が抑制され、月経不順や無排卵をもたらす可能性も指摘されています。卵巣からのアンドロゲンの過剰分泌の原因としてインスリンの抵抗性(インスリンの働きが悪くなる)も指摘されています。また、遺伝的な原因もあるとされ、家族内にPCOSの人がいる場合、発症リスクが高まることも指摘されています。そのほかインスリン抵抗性を悪化(血糖下げるホルモンであるインスリンのききが悪くなる)させ、肥満も誘因となります。

Q PCOSの状態で放置するとなにかリスクは高まりますか?

A ニキビ、多毛症が助長されるほか、不妊症、子宮内膜増殖症や子宮体がん、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどのリスクが高まります。

高プロラクチン血症

脳下垂体からでているホルモンの中で、乳汁を分泌させる作用のあるホルモンのプロラクチンが高い(30以上)病気です。症状としては月経異常と乳汁漏出を認めます。原因としては「脳下垂体のプロラクチン産生腫瘍 (プロラクチノーマと言います)の可能性があります。腫瘍が無くても、精神科の薬、胃薬、血圧を下げる薬、抗うつ剤などでも同様に、血液中のプロラクチンが高くなることがあります。

Q プロラクチン産生腫瘍 (プロラクチノーマ)があるとどのような症状が出てくるのでしょうか?

A 腫瘍の直径が10mmを越える場合マクロ・アデノーマといい、 10mm未満の場合をミクロ・アデノーマと言います。ミクロ・アデノーマの状態では月経異常と乳汁漏出が主な症状です。脳下垂体のある場所は、視神経の近くなので、増大して、視神経を圧迫すれば、目が見えにくい(視野狭窄)症状がでます。 また、腫瘍の中に出血を起こすと、下垂体卒と呼ばれる重篤な状態になることがあり、まれに出血がくも膜下腔に及んで「くも膜下出血」のような症状を呈することもあります。くも膜下出血がおこると生命の危険にさらされること(ペオン・ラッカード症候群と言います) もあります。

Q 高プロラクチン血症で無月経になっています。不妊治療として排卵を起こすにはどうしたらいいのでしょうか?

A 子供が欲しい場合には、プロラクチンの値を下げる薬(ドーパミンアゴニストといい ます)を内服します。この薬は、プロラクチンの値を下げるため、それまで「高いプロラクチ ンが妨げていた視床下部のホルモンの働き」を 改善させ、その結果、自然と排卵が起こってきます。また、このドーパミン・アゴニストという薬は、プロラクチンの値を下げるだけでなく、腫瘍そのものを縮小させる効果もあります。副作用は、内服すると、頭痛、吐き気、嘔吐や全身倦怠感、などがありますが、最近では改良型が発売されていますので、随分副作用も軽減されています。

(参照:小池浩司他 執筆: 実践的排卵誘発:高プロラクチン血症に対する排卵誘発 産婦人科の実際 51:2005−2212、2002)

体重減少性無月経

体重減少性無月経は、視床下部性無月経の一種で、極端な体重減少や低体重が原因で起こる無月経(生理が止まること)です。体重や脂肪量が大幅に減少すると脳の視床下部が正常に働かなくなり、視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌が低下します。そのため、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌が低下して卵巣が機能不全になり卵巣からの女性ホルモン(エストロゲンや黄体ホルモン)の分泌低下が起こり排卵が起こらず、月経も停止します(下図参照)。とくに思春期から若年成人の女性に多く見られ、摂食障害(拒食症など)や過度のダイエット、激しい運動に関連して発症します。

(参照:小池浩司執筆 ニューライフ2007年10月号)

Q どのような症状があると「体重減少性無月経」と診断されるのでしょうか?

A 摂食障害(拒食症など)や過度のダイエット、激しい運動に関連して体重減少またはBMIの低下(一般的に17未満)がおこり、無月経(3か月間月経がない)状態が認められ場合に診断されます。血液検査ではLH・FSH・エストロゲンの低下などが認められますが、妊娠・甲状腺異常・高プロラクチン血症などでも無月経が認められますので、他の原因での無月経の原因を除外する必要があります。

Q 放置しておくとどのようなリスクがありますか?

A 女性ホルモンが低値、欠乏状態になりますから、骨粗鬆症、無排卵状態が続けば不妊症、心血管疾患のリスク増加などが指摘されています。また、エストロゲンが欠乏すると、ストレスに対して弱くなり、いらいら、情緒不安、うつ、不眠などの精神症状が出てきます。 ですから、若い女性でも更年期の症状に似た症状 (プチ更年期といわれるものがそれにあたります)が現れてきます。

Q どのような治療があるのでしょうか?

A ずは体重の回復です。理想体重の90%を目指します。多くの場合、もとの体重に戻っても、やはり月経が回復し ないことが多いのが特徴です。無月経が続けば女性ホルモンの補充も必要です。また過激なダイエットなどが誘因となる「体重減少性無月経」と区別しなくてはいけない病気 に、「神経性食欲不振症」による無月経がありま す。「神経性食欲不振症」は一般的には拒食症と いわれているもので、「拒食、過食、隠れ食い、 食べたものを自分で嘔吐してしまう」、などの食 事に関する異常行動が観察され、「体重減少性無月経」と区別される病気で、栄養管理・心理的サポートなどの治療が異なりますので注意が必要です。

女性アスリートの無月経

女性アスリートに起こる特徴的な健康の異常として、エネルギー不足とそれに伴う無月経、骨粗鬆症があります。これを女性アスリートの3主徴といいます。

女性アスリートは1日に必要とするカロリー量がアスリート以外の女性に比べはるかに多いです。食事量・筋肉量も同年代女性の平均より多く、減量の必要な格闘技、審美系種目(新体操やフィギュアスケートなど)など、過度のダイエットが必要な種目を除けば、一見健康的に見えます。しかし、実際には必要なエネルギー量が食事で入るエネルギー量を超えてしまい、結果的にエネルギー不足の状態になってしまうことがあります。

エネルギー不足に陥ると、脳で生理周期を管理している視床下部の神経細胞は卵巣にホルモン分泌を促す指示を止めてしまいます。その結果起きるのが生理周期の停止(無月経)です。毎月起きる生理は、そのたびに実は相当のカロリーを消費しているため、それを止めることで、なんとか生きていくために必要なエネルギーを維持しようとしていると考えれば合理的でしょう。

しかし、生理が止まるということは、卵巣が女性ホルモンの分泌を止めてしまうということです。完全に0になるわけではありませんが、女性ホルモンは骨や筋肉・関節を含めた全身に働きかけています。特に骨は女性ホルモンがあることでしっかりと強度を維持していますので、生理が止まってしますと骨が弱くなり、骨粗鬆症の状態になってしまいます。当然、骨折などのけがも増えます。
そのため、女性アスリートが無月経になってしまった場合は、まずエネルギー量の確認、そして、食事でとるエネルギー量の増加が必要になります。

さらに、必要に応じて女性ホルモンの補充を行うこともあります。
治療はご本人と医療者だけでなく、アスリートの所属するチームスタッフ・ご家族との連携も重要になります。

Q 激しい運動を続けるとほんとうに月経異常は起こるのでしょうか?

A 過激な運動は体にとってはストレスとなります。女性がストレスにさらされると、月経が乱れたり、月経と月経の間の中間期に不正出血がみられたり、ひどい場合には、月経が停止 (3カ月以上月経が停止した場合には無月経と言います)してしまいます。月経が乱れるのは、色々原因 がありますので、ホルモンを専門にしている産婦人科の先生(産婦人科内分泌代謝専門医)を受診して検査してもらうことをすすめますが、その原因の一つに、「過 激な運動」によるものも確かにあります。

また、私どもが行った動物実験でも、ネズミをベルトの上にのせて無理やりに運動をさせる(時速 750mの強制運動)と、運動量の増加に伴って、月経周期(ネズミでは性周期といいます) の異常が観察されたり、ついには性周期が停止してしまったりします

(参照:図1は第30回日本女性医学学会学術集会「ランチョンセミナー講演(演者小池浩司)」発表スライドより転載)

(参照:10代~20代の月経異常、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症の月経異常についてのDVDは小池レディスクリニック(大阪なんば)にて販売しております)